バジリコ・スパゲッティ
『キャンティ物語』を読んで当時の雰囲気を思い出せる人は業界の人々が多いだろう。特殊な職業の人々のサロンという感じ。あの、お店の醸し出す独特な空気は上質な大人っぽさと、ある種の意地悪さを併せ持ち常連のみを大切にしているようなお店だったから素人は入りづらかった。豪華と言うほどでは無いのに入店する前に、なぜか胸がドキドキする。文化人御用達のせいだろうと思う。
学生時代、東京のイタリアンは庶民的な『シシリア』が出来、次が『ニコラス』、この両店へはよく遊びに行ったが、1960年に出来た『キャンティ』へは行くチャンスが無いまま家庭に落ち着いた。1965年からは子育てが始まり、夙に有名になっていくのを雑誌で読むだけ、反対にシシリアは寂れ、いつしか完全に消えていった。
1970年代に仕事をするようになって、当時の売れっ子カメラマンやデザイナーに連れてゆかれたキャンティで、何故かバジリコのスパゲッティを頼むのが粋らしく、皆が一様に「バジリコ!」と言うのでつられて頼んでみる。
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