ありがとう、石橋蓮司さん!
観終わって叫んだ私に息子夫婦が笑いながら「脇で随分助かっているよね、良かったよ!」と言ってくれました。
久しぶりの夕食を一緒に下で食べるには「義経」が始る前に椅子に座ってね、と内線電話をしたくらい最後の追い込みです(笑)。が今朝の夢では黛さんが「今日は僕ではありません」と言ってらしたのでその事をフミちゃんに次いでに話すと「あ、ほんとだ」とタイトルを観て笑いました。
だから気楽に中華風豚と野菜の炒めもの、胡瓜とワカメの中華スープ、白菜の漬け物などで義経ディナー、でも静かに画面に注目・・・
いよいよ逃げ行く先は北陸道、すっかり汚れた山伏姿の郎党・・焦りと窶れがみえます。義経主従の動きもどうやら鎌倉殿には読まれている模様、さらに厳しい道のりが待っています。
一夜の宿を頼んだ猟師の所で何と巴に遭遇する義経さん、猟師に助けられ子を産み母の顔の穏やかな巴はモヨと称し「今生きていて、しみじみ良かったと・・・私を生きさせたのは貴方さま」・・・
「私も少しはお役に立ったのか、ならば良かった」と答える義経さん。
「諦めぬことじゃ、さすれば道はありましょう」この別れの言葉を伝えるモエは昔の巴のようにキリリとした瞳・・このエピソードは義経さんの優しさを現す意味で悪く無いと思うが、郎党の夢の語らいには苦笑も無きにしもだが、人間、苦境や極限の時に全くユーモアが無いか?と言うとそんな事は無く、かえって自らを振るい立たせるが毎くハシャグものだ。危険がせまる中の一時の夢想はかえってリアルな郎党達の胸中だと思う。
そして安宅の関へ・・・ずずっと引き込まれて観終わって、改めて石橋蓮司さんの演技にお礼を言いたい気持ちで一杯でした。
歌舞伎でもこの「勧進帳」のシーンは大袈裟なもので、もっとも有名、さてどうなるか?と思いましたが、冨樫とのやりとりで「何か?」と言いつつ弁慶の肩がジリッと義経さんを隠す辺りから・・隠居、目が弁慶と冨樫に釘付け。
切迫した問答の末、ついに勧進帳を空で読む件、冨樫にも嘘か判断つきかねる辺りの演技が実に素晴らしいったら無い。
「泉坊の不審あり!」懐の笛を咎められ「そなた真に山伏か・・?」
進退極まった弁慶、咄嗟に義経の懐から笛掴み叩き捨て六根棒で義経さんを思いきり叩きのめします。「まだ盗み癖が直らぬか」泣きながら笛も踏みにじり尚も腰を叩く弁慶の余りの勢いに冨樫泰家・・・この時の目の演技を観ることが出来ただけでも満足でした。
泣いているんです、ホントに・・・。
「先達殿! もう良い。」
「笛のいきさつ得心いたした」
家来に渡された酒の瓢箪と共に義経の側に来た冨樫の「したたかに打たれ今宵は痛さで眠れぬやも・・・其の時は酒で痛みを和らげるが良い。 盗みは致すなよ」
「・・・・」義経じっと冨樫を視る。
冨樫の目に多分一番鳥肌がたったであろう人は滝沢義経さんであるまいか。
「久郎殿・・」
昔から大好きな役者さん石橋蓮司さんに感謝した夜。この冨樫の目だけで統べての了見を察知する演技、並大抵では無い。とてもじゃないが軽いものになってしまったであろうからこの冨樫役、引き受けてくださった演出家としても優れている役者、石橋蓮司さんに配役を振ったスタッフにも敬意を表したい。
歌舞伎ならば蹴れんで引っ込む大見得の所をジワジワと涙ぐみながら鑑賞しました。
関を抜けた所で弁慶の大泣き・・
「弁慶、手をあげよ、そちの苦しみは我が苦しみ、そして皆の苦しみじゃ」
答える義経さんの顔も良かったです。