2007/8/18 土曜日

人間の尊厳は

Filed under: エッセイ,骨折日記 — patra @ 1:18:23

病室で書いていたメモを見ると電動ベッド(上下に加え頭、足部分等が稼動する音声つき)が届いたのは2月20日になっています。リハビリ室へ行ってる留守の間に取り替えてあったようで、<これで日中自由に自分でベッドを起こし座っていられる・・・>とありました。それまでは手動でベッドの上げ下げをしてもらっていたので遠慮していたのだろう?

メモによると手術の翌日15日にベッドから車椅子へ乗り移る練習の為にリハビリ室から2人の男女先生が来ています。包帯に巻かれた両足を伸ばしたままの私を一体どうするのか?見ていたら・・女先生が黒いカーボン状の撓る板をベッドと車椅子の手すりを跳ね上げた座面に渡してその上を滑るようにして乗り移るのだ!と説明してくださる。ひゃ〜滑り台ね!成る程。
パジャマのズボンの後ろを持上げてボードへ乗せてくださる・・・女先生に両足を持っていただき自分でもズリズリと滑ってみると簡単に車椅子へと乗り移れました。両足は車椅子から突き出した長い板に乗せたまま・・。
ちょうど見舞いに来ていた姉がすっかり感心する手際の良さです。
反対に車椅子からベッドは高さが逆でちょっと大変でした。

閃いた私はベッドを車椅子の座面より低くしていただき、やっぱり高い位置から低い位置へ・・・滑り台の原理を利用して試みたら楽勝で成功!。一々ベッドを手動で動かすのは人手も労力も大変なので電動ベッドが欲しかったのですが、思ったより取り替えていただくまでに時間がかかっていたのですね〜。機械で膝を曲げる運動も15日から午前と午後2回、1時間づつ忙しい日々がはじまりました。

16日からは昼食の後1階のリハビリ室まで看護師さんに連行?されながら何人かの患者さんたちとカルガモの行列のように並んで長い廊下を行進です。必死で車椅子を漕ぎながら皆で渡れば怖く無い♪状態は妙にかわいい行進です。
若い子や老人もみな仲間、同病合憐れむとばかり、すぐに仲良くなりました。

リハビリは広い部屋のそれぞれの台の上やマットの上で障害の程度に合わせた運動をするのです。私は端ッコのピンク色のチルドシートが定席の場所。
ピクリとも動かない両足にロープを掛け天井から下がった滑車を利用し自分の脚を上下させる運動から始め、ボールを膝に挟んで押し付けたり、三角の台を膝下に入れ足を片方づつ上げる?といった地味な運動を8種類くらい1時間ほど繰返すのを骨がつくまで続けたわけです。ちなみに痛み止めはこのリハビリの前に飲むだけに自分の意志で止めました。

17日のメモには部長先生が夕方「リハビリの先生に聞いたけどもっと手で身体を支える運動をしなきゃダメ!覚悟しないと!」と宣告される。身体を支える為の手の運動をするとアっと言う間に甲に内出血してしまう軟弱さに我ながら情けないが全くお尻が上に持ち上げられない。リハビリの先生は誉めてくれたのにどうやらお世辞だったか・・・とがっくりする。その夜問題が・・・。

2月21日ダイブ動けるようになったがまだお尻が持ち上げられない・・
2月22日今日洗髪していただく・・とある。入院12日目にやっと洗髪とは情けない。

ドライシャンプーやアルコールで自分でメンテナンスを試みていたが限界もあったのだろう必要最低限の要望です!というメモが残っていて当時の辛さが蘇ります。

(1)毎朝起きたらすぐに歯を磨きたいので顔拭きの時、水飲みに水を入れベッドを起こして欲しい。歯磨きの水は食後3度3度交換して欲しい。

(2)トイレは自分の意志では働かないのでそちら側で必ず時間を取って欲しい、レシカルボンを必ず用意して欲しい。

と書いてあった。電動ベッドが来るまでの10日間、慣れない入院生活に随分遠慮もあった私だが看護側から人間の尊厳にたいする配慮がなされていずに17日に大爆発して怒ってしまってからは、やっと整形の看護師全員が注意深く優しくなったのは事実である。後に親しくなった看護師さんは「患者さんが遠慮して言い出せないなんて考えもしませんでした。イチダさんの抗議はとても勉強になりました」と言われ反って驚く始末。授業と実際とでは違うのだろうが、すべての看護師が自分がもし患者の立場だったら・・・と考えていただければ解決する問題だ。

何を爆発したか?というと勿論トイレ。
術後の翌日から連日、朝から膝曲げ、リハビリと続き午後から又膝曲げマシーン、3時過ぎから同室の面会人の出入りが多く排便のチャンスを失った私が消灯時に、やっとの思いで4日分の要望を伝えると当直看護師、やたらに美人さんが「え!?、夜になさるんですか!そんな習慣なんですか?昼間になさってください」との厳しい言葉に遠慮の糸が終にプツンと切れた。「お言葉ですが私は明治生まれの父親に厳しく育てられています。好きで好んで夜にしたいわけではありません!朝と昼間は膝曲げ機械やリハビリ、面会人が大勢出入り、一体何時すれば良いのですか?人間の尊厳を守れない病院は最低です。私に1度たりとも入院以来、排便の有無を聴いてくださいましたか?配慮してくださいましたか?ではもう結構です。」

いくら謝まられてもその夜は1ッ歩足りとも引かない猛烈抗議に驚いた看護師さん達、翌朝は完璧な申し送り連携サービスを受け助かりはしたけど・・・俄には怒りは納まらず転院を真剣に考えた事件です。

患者は自分の身体を人質に取られている様なものだから気の強い人でも結構遠慮がちになる。それを良いことに無視するのは看護側の怠慢でしかない。入院してから12日目にやっとの洗髪サービスと共に、この事件は実に酷い人権侵害だと思った。

その抗議以来、歩けて一人でトイレに行ける患者に対しても毎日「トイレありましたか?何回ですか?」と念仏のごとく繰り返す彼女らの純情ぶりに苦笑せずには居られなかったけれど、ものの本質の何たるか?を考えられなくなった歯車的人間では上質の介護など到底臨めない。

すっかり懲りた私はあらゆる疑問点を、その度,勇気を持って抗議してゆく内、整形の看護師さん達に関しては、あの美人さんは特に最優秀に近く成長し、他の人々も80点以上という好成績で優秀な看護師さんが増えたのは実に喜ばしい。私のフンガイ?も無駄じゃなかったわけだ。

メモを読むと前向きで頑張っていた自分が愛しくなるがそれにしても5ヶ月の間、実にさまざまな人間ドラマも起きたわけで・・・面白く貴重な体験ではありました。


  1. すごくわかりました。お気持ち。

    私の場合は、洗髪でした。冬だったけど、何も教えてもらえなくて
    ドライシャンプーとか試しましたが、脂というのはそんなに
    ヤワではなく。

    まるでレゲエのおじさんのようになってしまった私の髪を見て
    看護師さんが、「頭洗ってないの?」とのほほんと聞かれたときは
    まだまだ20代半ばで、お化粧できなくても清潔にはしたい女心を
    踏みにじられた気持ちでした。

    「だって、教えてくれへんかったやん。」と心で叫びました。
    ちょうど母がきていたので、髪を洗ってもらってほっとしました。

    髪でもあんなにつらかったのに、トイレがそんなことでは
    本当に困りますね。

    その病院の看護師さんは、とってもいい勉強になったでしょうね。
    なっているといいな。
    入院患者はやっぱり、自分の身に起きたことのない事件の只中に
    いる人がほとんどだもの。

    コメント by うい — 2007/8/19 日曜日 @ 23:46:10

  2. ういちゃ〜ん♪
    さっそく反応してくださってありがとう〜〜

    お世話になってる患者の身ではそれでなくとも忙しそうな看護士さんを
    呼ぶって勇気いりますよね。

    入院して美容院をすぐ予約したら車椅子から店の椅子に乗り移れないとダメ!と断られて何で病院に有る美容室が車椅子対応じゃないの??と更にびっくり。

    髪が奇麗じゃないと気分は悪いので、車椅子に乗るようになって何時も朝シャンプーを自分でしてました。サラサラヘアー♪でも絶対に事前に教えてくれませんよね、自分で方法を見つけるしかない。

    車椅子トイレは一つしか無くて、しかも手摺の設計が悪く、退院まで苦労しました。今は自宅で快適な電動なのでしあわせですが何故病院に電動トイレが無いのか不思議です。

    コメント by patra — 2007/8/20 月曜日 @ 13:54:39

  3. 壮絶な経験をしたのですね・・・
    今試しに、両手をついて足を使わずお尻を持ち上げようとしました。
    ぜんぜん駄目です。(私の場合、大きなお尻が重すぎ・・・)
    両足が使えず、それをするのですから大変なことが分りました。
    ベッドを下げて車椅子の高さに合わせる、このことをどうして
    病院側が思いつかないのでしょうね〜

    病気もそうですが、人に身になって考えることは、どんな場合でも大切ですね。

    コメント by sakura — 2007/8/20 月曜日 @ 22:35:30

  4. パトラさんお帰りなさい。
    どうしたのかなぁと思いつつ、たびたび覗かせていただいていました。
    大変だったんですね!
    びっくりしてしまいました。
    これから、ゆっくりのんびり、リハビリしていってください。
    パトラさんのお料理や、お部屋のインテリアが大好きですので、
    パトラさんのブログをいつも楽しみにしています。
    どうぞご無理なさらずに・・・。

    コメント by ちい — 2007/8/20 月曜日 @ 23:41:54

  5. sakuraさんの蟹のお話、おもしろかったです〜

    そうなんです、しかも私は腕も筋力が弱いときてますからどう頑張っても無理・・・頭の血管が破れそうになるし
    そこで自分なりに何が重要か?を組み立て直しリハビリを工夫しました。
    低い所から高い所へ身体を持ち上げるのは無理、時間の無駄!ならば車椅子の座面を高くしよう・・から始めたら何事もスムーズに・・

    病院側は,ミオパチ−患者の対応には、ほとんど素人状態でしたね,何故か(笑)
    手の力で身体を持ち上げるのは無理でしたがお尻が上がるようになったのは目出たかったです。
    ついには看護師さん達に「工夫の達人」と呼ばれてました♪

    コメント by patra — 2007/8/21 火曜日 @ 5:22:29

  6. ちいさん
    ごぶさたしてしまいました、こんなわけだったのです。

    目下リハビリというより家事に勤しんでいますのでこれが中々くたびれます。足が浮腫むほど立ち仕事が多いですね家事労働は(泣く)

    日曜以外はヘルパーさんに来ていただいて洗濯と掃除に買い物を手伝ってもらってます。助かってます。でもまだ写真をのせられるほど料理は作れていません。片手で身体を支えているので・・・

    タマネギの丸ごとスープを教えてくださったちいさんですよね!?お互いにがんばりましょう♪

    コメント by patra — 2007/8/21 火曜日 @ 5:34:33

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