金目鯛異変
夕餉に代わり映えのしない金目鯛の煮付けを出したところ我が家の殿、老父が憮然として呟く・・・
「日本近海物じゃないぞ、これ!」
「そんな事ないわよ、青森産だって言ってたもの」と母。
私はこの煮魚に関しては調理しただけなのでなんとも言えずに無言。
てろっっとしたお殿風の綺麗な指で魚の身に絡まった小骨を抜きつつ
「否否、日本の金目ならこんな身の部分に細い骨なんかないぞ!」と尚、ぼやく父。
「そんな事いっても近海物は全部寿司やへ行っちまうんでしょうよ」と母。
最近とみに聞く父の不満である。
「小骨がやたらに増えた、これはアフリカの魚だ。」
鮭でもタラでも鰻でも骨の文句を言う・・・
「魚も大変なんでしょう?きっと海の環境が変わったから、必死なのよ。
身体を骨だらけにして身を護ってるんでしょうよ」と私。
骨を抜いてあげようと手を出すと払い除けながら
「馬鹿いえ、日本の魚はこんな所に骨は無かったんだ」と譲らない。
歳を取って骨が障るようになっただけだ、と思いたいけどスーパーの魚の味、まったく旨くもなんともない。
「あ〜ぁ、ごっそうさん」と面倒臭そうに箸を置く老人に
「三崎から取り寄せようか?」と声かけると、きっぱりと首を振り
「いらん、いらん無駄じゃ無駄。」
鶴仙人のようなスラっとした後ろ姿で水差しを抱えて2階へ上がる。
母と私は残ったお皿を眺めては
「このどこが骨だらけなんだろうねぇ」と溜め息をつきます。
正直、何故か骨の多い部分が何時も殿のお膳にのっちゃうのは何故なんだ!?
92歳には真子ガレイしか駄目かもしれない。
まん中の土正骨さえ取ればきれいな身が残る金目ってあるのかしらん。