蝉の伝えるもの
引っ越して来た時直ぐは冬だったせいか、気がつかなかったテラスの隅にセミが転がっていた。私の寝室から外を眺めていて発見したのだ。未だ春も来ない時期のセミ?・・・
何とか確かめたかったのでアビリティ−ズのお兄さんやケアマネジャーさんが来た担当者会議の時、拾っていただいた。
カラカラになった蝉の屍骸をゴミにするのも可哀想。ホラ、7年もかけて孵化してアっと言う間に死んじゃうなんて生き物として不憫だからねぇ・・・
母の部屋の棚に飾ってあげました。
怒ったような泣いたような蝉の背中を見ていたら、ちょっと不思議な気がしました。
この蝉はこんな高いところまで飛んできて一冬中、吹き飛ばされもしないでテラスに居たのか?と。
前の家では、木々に蝉が良く止まり一夏中、アチコチでミーンミーン鳴いて、それを猫どもが銜えて来ては父に叱られていたのです。
「こら、殺生するな!猫ども」
蝉には同情的な父でした。
私と亡き母の引っ越し作戦は本当に振り返れば振り返るほど事件でした。
今総てが終わり、偶然見付けた蝉に、待てよ、まさか、そんな事は無いにしても・・・
来てくれていたのかもしれない。すると妙に愛おしい気がしてしまう。
捨てられないでしょう。亡き父さんが空蝉になって、一飛び先にマンションを下見してくれていた。、
未経験のマンション暮らしを不安がる我々が越してくる其の日を待っていてくれたとしたら・・・妄想が膨らむ。
そんな話をしたら、何時も花一棆持ってきてくれる看護師さんが蝉さんを窓の方へ向けながら声かけています。
「ほら、良くみえるでしょう。コッチ向きの方が・・・」
私の妄想に併せてくれる優しい人です。
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