ほんとうの愛を学びたいなら
1冊の本をお勧めします。「淳之介の背中」吉行文枝著 新宿書房 淡々と語るような文章の隅々から香ぐわしい気配がたちのぼります。
私は淳之介の作品をそんなに好きではないのです、エロスを追求する事に熱意のあまり尤も男にとって大事な物を捨てた人。戦後の時代背景のなかで「女」を描くには色街や芸人と遊び、肌で激写しないことには説得力に欠ける、情報を得られない時代に放蕩することが天命だったかのように優男でモテていた作家は遊びを許した或、希有な妻の愛に支えられていた時期がある...そうゆう話しだが、どこを向いても純愛の欠片もない今の日本人に「生きるか死ぬか」といった愛の選択をまるで無理矢理に剣を飲み込まされるようにして独りっきりで耐えた女性が昭和にはいた事を忘れてほしくないのだ。
淳之介が死んだ時、正妻である文枝さんは通夜も葬式も呼ばれなかったのだ。どんな事情が在るにせよ、残された母上、姉、妹には味方に成って欲しい、「焼香ぐらいさせてあげれば良いのに」と全く他人の私までが考える、そんな普通の常識も許されない理不尽な略奪愛人の暑苦しさのみ目立って腹がたってしょうがなかった。線香の一本や2本で減りはしない同居時間を勝ち得ただろうに。
耐え抜いた人の苦しみの中から生まれた美意識が、たぐいまれない愛の文章となって囁きかける。
無責任にも逝ってしまった昭和の美男子。青い陽炎のような淳之介の若い頃の写真にむかって「ふたたび生き直してみたいのが本音じゃないの?」と、思わず聞いてしまった。、文章をしたためている間、少なくとも淳之介は文枝さんの背後にお立ちになってはいまいか?
だれが本当に吉行淳之介を愛していたのか?同じことばを彼にも問いかけたい。
「淳之介の背中」を上梓しました版元の「港の人」里舘さまからメールをいただきました。
誠に個人的な読み方をしております市田ですのに、ごあいさつをいただき恐縮です。
こちらこそどうぞよろしく。
コメント by patra — 2004/9/7 火曜日 @ 1:01:42