父の盃
去年の暮れに亡くなった父の「忍会」を準備中、愛用していた盃を出してみたら
去年は気が付かなかった小さい罅が入っていた。
盃には煩い人で「あくまでも薄手、平たく大振り」それが父の口癖の注文だった。
何もかも不器用な母がこの盃選びだけはコツを呑み込んでいて割ってしまっても
すぐスペアを戸棚から出し、そのどれもが父のお気に入りだった。
「相手を憶う心があれば何事も巧く行く」そんな長い夫婦愛の「阿吽」のスペア、ついに1個を余すこととなって父は逝ってしまった。
晩年は割られるのが否で盃だけは父が自分で杯洗で濯いで仕舞っていた。だから罅も今となっては父の思いでである。
その杯洗用にしたガラス器の銀の蓋を磨き中の水を新しくするのが毎日の私の役目だった。外は知らぬが家族の前では酒品の良い人だった。
酒に十の徳あり・・・父の口癖。
酒には十の長所があるという。
百薬の長。
寿命をのばす。
旅行に食あり。
寒気に衣あり。
推参に便あり。
鬱を払う玉箒。
位なくして貴人と交わる。
労を助く。
万人和合す。
独居の友となる・・・の十個。
薄い器の口触り。
お酒を美味しくしますね。
実家の父が作っていた杯はホントに薄かった。透けるような杯に赤色をまき、一度釜で焼きます。それから金で絵を描きます。そして低温で焼き付け。
注文は網模様だったけど、いくつか自分の好きな模様を描いて私にくれました。
普段使いには薄すぎて、すぐに割ってしまいました。桜貝のようなかけらでした。
なんでもっと大切にしなかったんだろう。
いつも思います。ぱとらさんのお父様、とても美しいですね。
コメント by みさちん — 2005/12/10 土曜日 @ 19:00:14
みさちん♪
昨日の忍ぶ会は大成功で皆さん一人一人が私の知らない父の側面を
お話くださって、ちょっと感動しました。
頑固一徹だが一本芯のあるお人、今流行りの儲け主義に走った建築ではない
何もかも構造計算まで独りでやった父の作品はまだお役に立っている事や
「ほんとの大人を見た思いがして高校生の不良の僕は恥ずかしかった」という
従兄弟の言葉からは優しい男の先輩として「一杯飲むかい?」と少年に盃を差し出すエピソードを語ってもらいました。
実にお洒落な義兄さんだった!・・・と母の妹の叔母上も。
こうしてみると、みさちん!美しい男に近い人だった気がしてきた。
コメント by patra — 2005/12/13 火曜日 @ 0:47:34