死ぬという大仕事
上坂冬子さんの最後のご本、闘病日記かと思ったらそうではなく担当医の先生方に質問なさりながら、ご自分の闘病生活をより快適で安心な最期へと向かうための覚悟のインタビュー集でした。
ぜんぜん暗くないしユーモアも皮肉も交えた見事な知力で質問なさる気力に脱帽です。この対談からほぼ1〜2ヶ月後にはお亡くなりになっています。私の常日頃考えている「癌」に対しての闘病のしかたと一致する内容です。いかにクオリティ・オブ・ライフを高めるかが、末期癌患者にどれだけ大切かを上坂さんが体験し我々に残してくださったメッセージです。
私の母も姉も癌を煩っているのですが、齢91の老母には所謂、治療を一切しない、という選択をしたばかりなのですが、この本を読むと正しい決断だったと理解できます。穏やかな死への共通概念が非常に良く分り心強くもありました。一人で生まれ一人で死んでゆく人がきっと増えていくであろうこれからの社会、病院、地域のあり方にも少し踏み込んでいてくださいますが、残念ながら足りません。『暖和ケア』が医療の中で普通な選択肢として受け入れられる為のキーワードが「病気を診ずして病人を診よ」という慈恵医大のロビーに掲げられた理念から広がっていけたら素晴らしい。
亡くなる直前までお好きだったフレンチを楽しめたのですから上坂さんは、巡り合えたお医者様たちに感謝されたことでしょう。お見事な幕引きでした。合掌。