プロ、術に溺れる
今月の9日に休暇で戻った息子を一目見て、おや?と思う。
いつもの見なれた印象とちがうのだ。
忙しかったので痩せたのかな?と思いつつ冷やし中華ソバで帰国祝いの途中「あ」と声をあげた。
「いつもよりkyoの髪の毛が短くて顔に全然、似合っていないみたいだけど!」
大皿から目をあげて・・やっぱり?・・というようにフミちゃんが頷く。
「今回はアパルトマンの上に住んでいるプロに切ってもらったんです」と言い、
「耳の上の切り方はコツがわかったんですけど・・・絶対に切りすぎですよね〜」と困ったように笑う。
なるほど、どうりで色気がない。息子は結婚以来いつもフミちゃんがそれは見事にカットしてくれるのでとても繊細な雰囲気だったのに。
首の太いマッチョならいざしらずスポーツ刈りだ・・美容院のプロは時として絶対に客を見ていない。
自分の手先に酔っているのか技術に酔っているのかなんだか・・客の注文とは違う似合わない髪型に平気でする癖があるようだ。
ひょろ長い痩せた首に短い髪の毛の息子・・・そうだ貧相になっちまったのだ。
「これでも大分伸びたんですよ」と申し訳なさそうに言うフミちゃんに
「貴女ほど息子の頭の形を熟知している人はいないわ、これからも今までどうり自信をもって、君が切ってね。プロより君のほうが断然上手だもの」
とお願いすると
「そりゃそうだよ、彫刻科出なんだからさ、全体像の把握はうまいよ」と息子も前髪を引っ張りながら照れ臭さそうに笑った。
髪を一つ切るのも愛が、技術より勝るのだ。
似合わなくては意味がないのにそれが出来るプロは実に稀だ。