江戸ことば・・
「井戸端会議」
7月号の婦人公論に糸井重里さんとなべ屋の御主人が豆腐談義を載せていた。
昔、この鍋屋の御主人に「江戸料理百選」という素晴らしい本をいただいたのを突然に思い出した。
60秒が勝負でも、昔のCMは、どこからもクレームが来ないように小道具ひとつまで手を抜かない。
その昔、初めてCMに坂本龍一さんを引っ張り出すのに成功した私と大阪電通は「失恋しても飯は食うよね」といったコピーを時代の寵児、糸井さんにお願いしたのだ。
朝メシのメザシ皿や飯茶わん、味噌汁椀を独り膳に載せて大正初期に設定したセットの板の間で
書生さんに扮した教授に召し上がっていただくのであるが・・・凝りにこった設定だったので青山の森田古美術店主に相談にあがったら、「私どもより大塚のなべ屋さんが良いでしょう、普段使いをお店で使っていらっしゃる。」とアドヴァイスしていただいた。
見ず知らずの私に快く江戸末期の普段使いの食器一式、お貸し下さったのが福田さんだ。
格式のあるお料理屋さんは繁盛して忙しそうだった。
奥様と共に洋間でコンテを見て食器を選んでくださり、ついでに出版されたばかりの本、「江戸料理百選」を手渡されたのだった。
帰りぎわ玄関で、もたもたと靴を穿き丁寧に御挨拶して「今度ぜひ食べにあがります」というと御主人が間髪を入れずに答えた。
「無理、為さらずともよござんす。」
「・・・・」
身分不相応なのか、と悟って返却時の予約は諦めた。
糸井さんは馴染みらしく、本文で「あ、福田さんのお店でさいごに出てくるデザートですね、これ、いつも楽しみなんですよ」
流石である。
裏方人生は所詮玄関先で値踏みされるのが運命か、まだ一度たりとなべ屋さんのお客になれず20年。
・・・よござんす。きっぱりした江戸弁が甦った日。
<ちなみになべ屋の’な’は旧かなです。>