17日の午後、マンションのドアフォンが鳴ったのでモニターを見ると、白いパナマ帽子の素敵な紳士が映っていました。
心当たりの無い方なので「何方ですか?」と尋ねると、
「ばしょうです」
え?と思う。
もう一度訊き直すとハッキリと「馬生です」
落語好きの私はピンと来ました。
十一代目金原亭馬生さんでは?ならば池波志乃さんのお客様なのでしょう。
ご近所にお住まいの志乃さんは、ご尊父様が十代目馬生師匠ですから。
「あ、多分ビルをお間違えだと思います」
とモニター越しにお伝えすると、
画面の紳士もハッとしたように
「失礼しました」とお辞儀をなさって画面が消えました。
その日は続いて二人程黒服の見知らぬ人がドアモニターに映りました。
似たマンションが並んでいるため、よくタクシーの運転手さんは中尾彬さん池波志乃さんご夫妻のマンションと我が家のマンションとを間違えます。
以前、我が家へいらしたお客様が間違えてあちらへ行ってしまったこともありました。
偶然にも同じ部屋番号だったのでしょう。しかも昭和のダンディここに在りと思える白い麻の洋装の馬生師匠をモニター越しに拝むことができたので、その晩、この出来事を息子にも話していたのです。
昨日中尾彬さんの訃報を知り、あぁ、関係者の方々が急遽集まられていたのだと得心したのでした。
中尾さんと志乃さんは素晴らしいご夫婦でした。心からご冥福をお祈りします。