2013/4/21 日曜日

不思議な繋がり

Filed under: エッセイ,人物 — patra @ 4:15:29

遊びに来てくださった椎名寿さん、ただ者じゃないのはFBで発表するエッセイを読んでいると分るのだが、色々な話の中で何とも不思議としか言い様のない意外な人物の名前が椎名さんの口から出たのだった。

多分私の本籍が浅草小島町、鳥越神社の管区内だったからか・・・何かの話の流れで椎名さんが鳥越神社の祭典に招かれた話を始めた。鏑木宮司さんに招かれ鳥越のお祭りの主賓として連ねた椅子に座っていると、大きな男が狭い椅子を押し分けるように入って来たので咄嗟に立ち上がって椅子をどけて道を開けたのだそうだ。いわゆる無頼の体の大男だったので、迫力に押され自然に出た行為だったらしい。
すると一度は頭を下げ通り過ぎた大男が再び戻ってきて
「失礼ですが、貴方は何方様ですか?名刺を頂きたい」と告げたそうです。まだ30代の椎名青年はそれにもビックリしたそうですが、名刺を交換するといきなり
「僕は貴方を好きですよ」と何度も言われたのだそうだ。
「それが百瀬 博教ひろみちさんだったんです。彼は鳥越神社の氏子代表でお祭りを仕切っていた」
絶句するしかない。まさかその名前がここで聞けるなんて!

普通ならば、男に好きですよ!といきなり言う奴は相当におかしいかホモだが、私は「それが百瀬博教さんだった」と椎名さんが言うのを聞き驚愕しながらも、さも有りなん!いかにも百瀬らしいと思ったのだ。
作家でもある百瀬博教は一癖も二癖もある格闘技界(PRIDE)の大ボスだけど酒も煙草も嗜まない。風体に似ず繊細、語彙の豊富なインテリなのだ。石原裕次郎の用心棒としてマスコミでは夙に有名だった。

百瀬博教は前田日明に向かって「毎日鏡を見て「世界で一番綺麗なのは俺だ」と言い続けて下さい」と真面目に頼むような男なのだ。そのインタビューの一部を抜粋すると・・・


百瀬「だからね、あなたはこれから朝起きて何をするかっていったら、もう腕立て伏せとかそういうことは絶対にやらない!ひたすら鏡を見るんだよ。それで「ああ、昨日よりちょっと男っぷりが悪いな」とか「今日はいいな」とか、そういう次元で生きていってもらいたいんですよ。もうね、力とか筋肉っていうのはね、どれくらい悲しいかっていうことは、あなたは誰よりも知ったと思う。とにかく、あなたがこれからやることは、目覚めたら鏡を見て、自分は昨日より美しいか美しくないか、そこだけですよ。もう、これからあなたは力じゃなくて美貌で生きていってほしい、と。これはホントの話なんだよ、冗談でも何でもなくて。」

そう前田日明をかき口説く男なのだ。
若い初対面の椎名さんを驚かせた「あなたを好きです」は百瀬の感性なのだ。

なぜ私が百瀬を知っているか?しかも呼び捨てにw
戦後、喘息や身体の弱い子が各地区から集められ、空気の良い富士山が見える沼津の海岸の養護学園に集められ集団生活をする時期があった。浅草、本所界隈の数カ所から集められた生徒は集団生活で初めて出逢い、小学3年生から中学2年生の擬似家族となる。
エッセイ「たまご愛」「月見草」にも書いたとおり戦後の復興に苦労している親達の元を離れた子供達はそれなりに護られ、幸せだったように思う。

もう名前も覚えていない生徒の中で印象的な百瀬は覚えていた。
虚弱児だった私は3年生から4年生の秋までの1年半、親元を離れて寄宿舎生活をしていたのだが、そこに百瀬という上級生が居たのだ。縮れ毛の丸坊主、6年生なのに中学生くらいに大きな少年。脚の悪い私を一度もからかったり虐めずにむしろ庇ってくれていた。
子供の頃の思い出なのでその後は一度も会っていない。戦後という時代が時代だけに滅多に会うこともなく散りぢりに卒園していったのだ。元々数カ所の学校から集められた生徒だから名簿を無くせばそこで消息は途絶えた。

ところが小説家になった百瀬が書いた『僕の刀』という短編を読んだ時、なぜかピンと来た。これはあの上級生の百瀬じゃないか?年齢も柳橋の出身地も符合する。
侠客の家に生まれ、父親の一大事に4年生の少年が背中に日本刀を背負って喧嘩場までひた走る姿は、私の脳裏には上級生の百瀬その人にしか映らなかった。

「アナタの事を好きですよ」そう唐突に言われたと椎名さんが語った瞬間、雷に打たれたように理解した。
学園を去るお別れ会の後、食堂の入り口で4年生の私に6年生の彼は、ハッキリと

「あのね、・・・好きですよ」

やっぱり百瀬だった!そうじゃなくては説明がつかない・・・その日初めてお会いした椎名さんの口から希代の強者 百瀬博教の名前が話題に出るわけがない。
百瀬博教が亡くなった事をブログにも書いていた私は百瀬の計らいだな?と気づいたのでした。

既に涅槃に旅立ってしまった人ではあるが、彼の詩集『絹半纏』に収録された短編『僕の刀』の父を憶う少年の心は実に瑞々しい傑作だ。
椎名さんが父親を描いたエッセイにも通じるように思った。
イチゴの季節
刀は寒い部屋に置く

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