カンレキーナの冒険
1.

シャンパン計はすでに左端を指していた。
鰹節も残り3本。そろそろ補給する頃ね。
2重窓なのでカンレキーナは気付かないけれど
ごう音をとどろかせて円盤は着陸した。
石炭かごの中から黒猫が飛びおりた
まだカンレキーナは洋服を選んでいる。
彼女のいちばん素敵な絹のドレスは
昼と夜では夜の方がきれいにみえる。
そんなわけでカンレキーナは夜になってから
きままにでかけようと思った。 3.

破裂しそうな人から空気を抜きとって
へこんだ人をふくらまし。
やかましい星には沈黙を売り
静かな星には喧噪を売る。
カンレキーナはみんなに喜ばれた。
黒猫は宇宙中のおいしい魚を食べられた。
海老の竜巻揚げ、ドーナッツ魚のポトポト煮。
北斗ナナツ星クジラの肝吸い。
彼は宇宙3大珍味を制覇した宇宙初の黒猫だった。
気がつけばふたりはいつも一緒の皿で食べていた。
黒猫はカンレキーナのことが好きだった。
カンレキーナは黒猫のためにお皿に魚の絵を描いた。
2.

カンレキーナが宇宙貿易商になる前のこと。
彼女は血気盛んな盗賊だった。
女盗賊の頭領。その美貌と窃盗術で
欲しいものも欲しくないものも
捕まるまで盗み続ける日々だったけれど
実は本当に欲しいものだけは
一度だって手に入らなかったのだった。
背広を盗んでも父親はいないし
絵の具を盗んでも絵は描けない。
ある日、盗んでもなつかない黒猫にそれを教わって
カンレキーナは宇宙貿易商になった。 4.

日暮れどき、ようやく円盤からおりたカンレキーナは
オリオンの西日に帽子をはすにかぶると
黒猫の勘にしたがってレストランをみつけた。
炭酸に腰がひけたソムリエロボが
グラスとスープ皿にシャンパンを注ぐ。
黒猫の皿には3匹もの油々鰯がのっている。
まえもこんな豪華な日があったな、と思いながら
黒猫は鰯の頭にかじりついた。

ハッピーバースデー★カンレキーナ 2002.3.5